「あなたは、十分にお稽古を積んできましたよ。」
「あとは、自信をもって、やりなさい。」
私にとっての大舞台「長唄 鷺娘」の前夜、師匠がそう言ってくれました。
何よりも心強い支えとなりました。
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その日、翌日の舞台のためのリハーサルが行われました。
演者以外の問題も、少々発生していました。でもそれは、プロの裏方さんが、
明日には間違いなく修正いただける範囲のものでした。
少々の戸惑いはありました。
それにしても、その日、私の踊った鷺娘は、とてもひどい出来でした。
「十二分とは言わないけれど、それなりにお稽古は積んできたはずなの
に・・・、なんでこんなに上手くいかないんだっ???」
そのくらいひどい出来でした。
そうなると、もう歯止めはききません。
私の心は、堂々巡り、抜け出せないメビウスの輪の中で、もがき苦しみ始めま
したで。
「この舞台を通して、こんなメッセージを観客に伝えたい。」
「できれば、感動を差し上げたい。」
なんて、だいそれたこと考えてた自分は、なんて大ばか者だったんだ!
こんなんじゃ、ろくにひとつの舞台を全うすることなんて、できやしない!
何とかしたい・・・でも今さら、何にもできやしない。
時間がなさ過ぎるよっ!
・・・どうしたら、いいんだぁ〜!
なんでもっと、お稽古しなかったんだろう。
なんでもっと、いろいろな事態を想定しておかなかったんだろう。
なんでもっと、真剣に考えておかなかったんだろう。
なんでもっと・・・なんでもっと・・・なんでもっと・・・。
自分で、どんどん自分を責め上げていきました。
そうすると、どんどん自分が苦しくなって・・・。
・・・表面上は平静を装っていたつもりでしたが、完全にパニックに陥ってい
ました。
・・・その夜、師匠に電話しました。師匠は所要で、リハーサルには立ち会え
ていただけなかったんですが、師匠の娘さん(この方も、日本舞踊のお師匠さ
んです。)が、立ち会っていただいていました。
私 :「こんばんわ。」
師匠:「あっ、お疲れ様〜。今日のリハーサルは色々たいへんだったよう
で。聞きましたよ。」
私 :「え〜、ちょっとパニックです。」
師匠:「問題は、心配しなくても大丈夫よ。プロの裏方さんは、間違いなく、
明日には間に合うから。」
私 :「え〜、でも・・・」
その少しのやりとりだけで、師匠は、私の心の葛藤・戸惑い、いろいろと入り
混じった感情を、敏感に感じ取っていただいたようでした。
そして、その気持ちのままでは、明日の本番に向かっていけない状態であるこ
とも、一瞬でつかみとっていただいたようでした。
私の声は、そんな情けない感情を、師匠にぶつけてしまったようでした。
師匠:「あなたは、十分にお稽古を積んできましたよ。
あとは、自信をもって、やりなさい。」
私 :「・・・」
師匠:「大丈夫。ほんとうにここまで、十分にやってきたんだから。」
私 :「ありがとうございます!」
師匠のことばが、こころに染み入ってきました。
自分で自分を責め上げる、荒んだ気持ちに、すっ〜と、染み入ってきました。
何ともいえない、大きな安心感が、私のこころを包み込んでくれました。
あったかい、あったかい気持ちになれました。
私 :「ありがとうございます。そのように言っていただけると、なんだか
本当に、大丈夫な気がしてきちゃいました♪
十分だったかどうか分かりませんが、とにかく頑張れます。
頑張ります。」
そう言いながら、師匠にマンツーマンで、手取り足取り指導いただいた、たく
さんの瞬間たちを、思い出していました。
そうだ。十分かどうかは、分からないけど、たくさんのお稽古の瞬間は、確か
にあったし、今、私の胸の中に、その瞬間たちは生きている。
一瞬一瞬の大切な時間たちは、間違いなく、私の中にある!
そう確信できました。
まさに、その瞬間、自分を責め上げる気持ちは、自分を応援する気持ちに変わ
りました。そう、一瞬の出来事でした。
師匠:「あなたは、十分にお稽古を積んできましたよ。
あとは、自信をもって、やりなさい。」
師匠は、もういちど、そしてとても慎重に、ことばが私に伝わったかを確認す
るかのように、言ってくださいました。
そして、師匠のことばは、私のこころのど真ん中に、伝わりました。
あったか〜いことばでした。
私 :「ありがとうございました。おやすみなさい。」
あったかい気持ちで、電話を切りました。
師匠に弟子としていただいて26年間、私は本当に学びの少なかった弟子でし
た。
いつも師匠に確認していただかないと、不安でした。
いつも師匠のことばの中に浸っていないと、不安でした。
もういい加減、年齢的にも、少しくらいは学んで、自分のコントロールなんて、
自分でできるぞっ、なんて思ってみたりしてました。
でも、いざというときになったら、全然出来ませんでした。
本当に自分が自分で情けなるくらい、自分を立て直せませんでした。
自分では、何も出来ませんでした。
そして、今回もまた結局、師匠に頼りきってしまいました。
本当に修行が足りません。
師匠、申し訳ありません。そして、最大級の感謝です。
ありがとうございます。
・・・精進します。
これからもよろしくお願いします♪